概要
この数十年、テクノロジー業界における大きな課題のひとつは、コンシューマー向けツールと企業システムのギャップを埋めることでした。かつては、最先端技術を導入できる企業向けに開発された技術が一般消費者へと広がっていく流れが主流でしたが、現在ではイノベーションの多くがコンシューマー市場から生まれています。その一方で、企業で活用するには、セキュリティ、信頼性、運用性といった要件を満たすための追加対応が欠かせません。
AIは今まさに、この課題の中心にあります。AIがビジネスにもたらすインパクトへの期待は、個人レベルでの利用体験やコスト構造をもとに語られることが多くありました。しかし、それを企業全体に拡大しようとすると、多くの前提が必ずしも成り立たないことが明らかになりつつあります。
生成AIが登場してから約4年が経過した現在も、多くの企業における導入はまだ初期段階にあります。経営層の期待と現場の実行能力とのギャップ、投資意欲とガバナンス・ポリシー整備の遅れなど、AI活用戦略の課題も顕在化し始めています。
CompTIAの「Corporate AI Adoption」調査では、企業が従業員一人ひとりのAI活用を支援しながら、組織全体の業務プロセスへAIを統合していく取り組みに焦点を当てています。本調査では、AIが企業のテクノロジー戦略の中でどのような役割を担っているのか、導入における課題は何か、そして今後の成功につながる重要な要素は何かを明らかにしています。
主なポイント
初期のAI導入は、技術とビジネスの重要なつながりを浮き彫りにしています
59%
組織全体のテクノロジー基盤へのAI統合を推進67%
AIの実行・推進責任はテクノロジー部門にあると考えている79%
今後12か月間でAI投資を拡大する計画がある
AI活用の拡大には、人材面と技術面の課題克服が不可欠
56%
AI活用に慎重な従業員層#1
AIと人間の適切な役割分担を見極めることが導入課題として上位に挙げられている57%
AIを含む包括的なスキル開発プログラムの新設を予定
将来の成功は、データ、ガバナンス(ポリシー)、そして技術運用にかかっている
78%
データ活用にはまだ改善の余地があると認識66%
AIポリシー策定において、責任あるAI利用を非常に重要視している93%
AI導入が進む中で、技術部門の役割は維持または拡大すると予想している
1. AI導入の初期段階から見える、テクノロジーとビジネスの密接な関係
-
AI導入には、「従業員の業務支援」「テクノロジースタックへの統合」「アプリケーション開発」の3つの形態がある
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AI導入の推進役として技術部門が認識されることが多いが、これは実行責任を担う組織であることが背景にある
-
約8割の企業がAI関連投資の増加を見込んでおり、投資分野は主に人材育成、サイバーセキュリティ、データ活用に集中している
現在のAI導入状況を理解するための第一歩は、AIを独立した存在として捉えないことです。AIは組織全体のテクノロジーアーキテクチャの一部であり、その導入や活用の方向性は、企業のテクノロジー戦略やデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進状況によって大きく左右されます。
企業のテクノロジーに対する姿勢は、予算配分の考え方、新しい技術トレンドの評価方法、そして必要なスキルをどのように育成するかといった組織的な判断に表れます。一方、デジタルトランスフォーメーションの進展度は、現在の技術基盤の成熟度や、これまで取り入れてきた技術トレンドを示す指標となります。
CompTIAの過去の調査結果によると、企業のテクノロジー戦略には大きな変化は見られておらず、また多くの企業がAI活用を本格的に推進するための安定した基盤を十分に構築できている状況にはありません。そのため、AIの可能性に注目が集まる一方で、実際の導入と成果創出には、既存の技術環境や組織の成熟度が大きく影響していることが分かります。
予想どおり、積極的なテクノロジー戦略を採用している企業ほど、デジタルトランスフォーメーション(DX)が進んでいる傾向が見られました。積極的なアプローチを取る企業の58%が、自社のDXの進展度を「非常に高い」と評価しているのに対し、着実に前進している企業では16%、安定維持または投資を抑制している企業では10%にとどまっています。
AI導入についても同様の傾向が見られますが、その傾向はすべての導入形態に当てはまるわけではありません。AIを既存のテクノロジースタックに統合する取り組みや、AIを活用した社内アプリケーション開発は、積極的なテクノロジー戦略を持つ企業でより多く実施されています。一方で、チャットツールなどを活用した従業員向けのAI活用支援については、企業のテクノロジー戦略にかかわらず、比較的同程度の水準で導入が進んでいます。
この違いは、「AI導入」という包括的な言葉の中に、異なる優先事項や導入難易度に対する認識が存在していることを示しています。従業員がAIチャットツールを利用できる環境を整えることは比較的容易である一方、AIを基幹システムや業務プロセスに統合したり、独自のAIアプリケーションを開発したりするには、より高度な技術基盤や組織的な取り組みが求められます。そのため、企業のテクノロジー成熟度が高いほど、より高度なAI活用へと進んでいることが分かります。
AI導入の実態を正しく理解するためには、導入を推進する主体と、実際に導入を実行する主体を区別して考えることが重要です。調査では、多くの回答者が技術部門をAI導入の推進役と捉えていますが、この見方は主にIT部門や事業部門など、日々の業務や実装に近い立場の人々によるものです。一方で、経営層の回答を見ると、10人中6人以上が経営陣こそがAI導入を推進している存在であると認識しています。
経営層は組織全体の目標達成に焦点を当てているため、「企業がAIの恩恵を享受し、競争に取り残されないようにする」といった経営的・戦略的な観点からAI導入を後押ししていると考えられます。これは、技術的な導入や運用の詳細を直接主導するというよりも、AI活用の方向性や優先順位を示す役割に近いものです。
一方で、AI導入を実現するための実行責任は、技術部門が担っているという点については広く共通認識が見られます。AIの導入方針や実装内容が従業員へ伝達されるのも技術部門を通じて行われることが多いため、結果として「技術部門がAI導入を推進している」と認識されやすくなっています。
この違いは重要な意味を持っています。AI導入の目的は、単に最新技術を取り入れることではなく、ビジネスの生産性や効率性を向上させることにあります。そのため、AI活用を事業成果と結び付けることが、現代の戦略的ITにおいてますます重要な役割となっています。
さらに、この取り組みは、もともと個人向けに利用されていたAIツールを、企業全体で安全かつ統制された形で活用できるように展開する必要があるため、一層複雑になります。AI導入の成功には、経営層による明確なビジョンと、技術部門による着実な実装の両方が不可欠であり、テクノロジー戦略とビジネス戦略の連携がこれまで以上に重要になっています。
企業がAIによって期待するメリットを評価すると、大きく2つの重要なテーマが浮かび上がります。
第一に、AIへの期待は、組織内に蓄積された知識や、従業員が持つ業務知識が十分に存在することを前提として成り立っています。期待される効果として最も多く挙げられたのは、他の項目を大きく上回って「業務遂行スピードの向上」でした。しかし、単に作業を速く完了できること自体は、その成果が正確で適切であることを保証するものではありません。
同様に、期待されるメリットの第3位には「成果物の品質向上」が挙げられています。しかし、この期待が実現するためには、AIの学習データやモデルが高い精度を備えているか、あるいはAIを利用する従業員自身が、高品質なアウトプットとそうでないものを適切に見極める能力を持っていることが前提となります。
つまり、AIは業務の効率化や品質向上を支援する可能性を持つ一方で、その効果はAI単体によって生み出されるものではありません。AIが真価を発揮するためには、組織に蓄積された知見や、従業員が持つ専門知識・判断力と組み合わせて活用することが不可欠です。AI導入の成功は、テクノロジーそのものだけでなく、それを活用する人材のスキルや組織の知識基盤にも大きく左右されると言えるでしょう。
期待されるメリットから得られる2つ目の示唆は、経営層がAIの可能性について、事業部門やIT部門の担当者よりも一貫して楽観的な見方をしていることです。 この傾向は、特にAIが既存の業務プロセスを超えて価値を生み出す能力に関して顕著に見られます。例えば、創造的なアイデアの創出、新しいスキルの開発、新規顧客の獲得といった領域において、経営層はより高い期待を寄せています。
メディアで語られるAIの可能性に関するストーリーには、こうした経営層の見方が大きく反映されています。しかしその一方で、既存の業務プロセスを改善するために日常的にAIツールを活用している現場の担当者は、より現実的で慎重な視点を持っています。そのため、AIに対する経営層の期待は、実際にツールを使いながら業務改善に取り組む人々の経験によって、ある程度抑制されていると言えます。
これらの期待を総合すると、新興技術によく見られる馴染みのある構図が浮かび上がります。つまり、理論上は非常に高い可能性を備えている一方で、それを組織全体へ大規模に展開し、本来の価値を引き出すことには課題があるということです。AIが個人レベルでの生産性向上にとどまらず、組織全体を変革する力を発揮するためには、サイバーセキュリティ、ポリシー、業務プロセス、そして人材育成に関する企業としての意思決定と具体的な取り組みが必要になります。
新興技術に共通するもう一つの特徴は、導入初期に投資への期待が高まることです。AIも例外ではなく、今後12カ月以内にAI関連投資を増やす予定である企業は約8割に達しています。 予想どおり、テクノロジーに対して積極的な姿勢を取る企業ほどAI投資にも積極的ですが、より慎重なテクノロジー戦略を採用する企業の中にも、投資拡大を計画している企業が数多く見られます。
投資の増加が見込まれる分野は、企業が何を重視しているのか、また将来的にどのようなスキルが求められるのかを示す指標でもあります。これまでは、従業員がAIツールを利用できるようにする「従業員支援」がAI導入の中心であり、研修も基本的な概念や利用方法に重点が置かれていました。しかし現在では、企業の関心がテクノロジースタックや業務プロセスへのAI統合へと移行しつつあり、それに伴って教育・研修も、AIリテラシーをより深く理解する内容へと広がっています。また、AI以外の関連分野にも注目が集まり始めています。
その代表例が、AIとサイバーセキュリティの関係です。AIはセキュリティ運用の能力を高める一方で、サイバー攻撃の手法や脅威の規模も拡大させています。このため企業は、サイバーセキュリティ担当者の専門スキルを強化するだけでなく、従業員全体のセキュリティ意識向上にも取り組む必要があります。
また、データ分析への投資拡大も、人材育成の取り組みをさらに後押しすると考えられます。多くの企業は、今後、技術職以外の職種においても、何らかの形でデータ分析を理解し活用できる人材が必要になると見込んでいます。その一方で、データの管理や高度な分析を担い、組織全体がデータへアクセスし活用できるための基盤を提供するデータ専門人材の重要性も高まっています。
サイバーセキュリティやデータ活用への注目が高まる中で、ITアーキテクチャに関する議論は以前ほど活発ではなくなっています。しかし実際には、企業がAIモデルの選択、データの保存方法、エンドポイントデバイスのあり方を見直す中で、大きな変化が進行しています。AI活用に伴うコストが増加するにつれ、クラウド導入時にも見られたような、パブリック環境・プライベート環境・ハイブリッド環境のどれを選択すべきかという議論が再び重要になっていくでしょう。
最後に注目すべき点は、AIポリシーへの投資に対する期待が比較的低いことです。ポリシーとは、社内の運用ルールやガバナンスモデルを指す場合もあれば、規制への対応やコンプライアンスを指す場合もありますが、テクノロジー導入において過小評価されがちな要素となっています。
AIがもたらす変革の可能性は、単にIT部門だけで解決すべき課題ではありません。企業全体が、新たな業務プロセス、人とAIの最適な役割分担、そして技術的な規制への対応について共通認識を持つ必要があります。そのためには、明確なAIポリシーの策定が重要な要素となるはずです。
しかし、この調査結果が示すように、多くの企業は依然としてAIポリシーの整備を投資計画の優先事項として位置付けていません。AI活用が本格化する中で、技術投資や人材育成だけでなく、AI利用に関するルールやガバナンスの確立が今後さらに重要になると考えられます。
2. 勢いを築くには、行動面や技術面の障害を克服する必要があります
- 従業員の行動を変えることは、技術的な問題を解決するよりも大きな課題である可能性が高いです
- スキルギャップは、AIの基礎から実装スキル、さらには既存のコアドメインのギャップに至るまで、採用課題の重要な要素です。
- 導入とスキル構築は密接に関係しており、企業の導入は特定のスキルを推進し、これらはホリスティックなトレーニングプログラムで取り組むべきです
技術の導入は技術的な課題に焦点を当てる傾向があります。コスト/ベネフィットの分析は?技術は既存システムとどのように統合されるのか?エンドユーザー向けの展開やサポート計画はどうなっているのか?これらの質問はすべて妥当ですが、従業員の行動がしばしば最大の障害となります。AIの場合、それは確かに当てはまります。
小規模な技術実装の場合、企業は新しい行動を強制するために古いシステムを廃止したり、より長い移行曲線を受け入れたりすることがあります。AIのように目立つものでは、考慮すべき点はより複雑になります。ピュー・リサーチ・センターの「Americans and AI 2026」調査では、米国成人の40%がAIが社会に悪影響をもたらすと考えているのに対し、プラスの影響を期待しているのはわずか16%でした(残りは中立的な影響を期待しているか、不確信を持っていました)。雇用主はこの感情を従業員に反映していると感じており、CompTIAのサンプルのうちAI導入に熱意があると考えているのは43%にとどまりました。
CompTIAの調査では、失業に関する憶測が感情的低下 の主な要因であり、企業が直接取り組むことは難しいでしょう。しかし、他の要因はより対処しやすいものです。従業員が失業を心配していない場合、現在の業績に自信を持ち、特に初期の使用が不均一で幻覚に悩まされていた場合は、AIの使用の利点を見いだせないかもしれません。たとえAIツールの使い方でスキルを身につけようと意欲的であっても、複雑なテーマでどこから始めればよいか分からなかったり、適切なスキルを十分に身につけている自信が持てなかったりするかもしれません。
AIスキルは現在、経営幹部、ITリーダー、人事担当者の間で最優先事項となっていますが、スキルベースの人材管理へのシフトに根ざした、より大きなスキル開発の難題の一部です。CompTIAの「労働力と学習トレンド2026」調査では、企業は望ましい成果に結びついた強力な開発プログラムを含むスキルベースのアプローチの正確な方法論の定義に苦労していることがわかりました。スキルの分類法や開発プログラムを構築することで、AIスキルを含むスキル構築を通じて、従業員にキャリア成長のためのロードマップを提供します。
企業がAI導入で既に直面している、または直面すると予想されている課題のリストは、技術的な課題に重点を置いているだけでなく、行動変容の重要性も示しています。人間の努力とAI能力のバランスを見つけることは、ワークフローの技術的な部分とそれに伴う引き継ぎを定義することと捉えられるかもしれませんが、このシナリオの基本を素早く理解することで、従業員はAIとの協働を含む長期的な キャリア展望を把握できます。
組織レベルでさえ、ユースケースの明確さは課題として際立っています。しかしこれは単に個々のユースケースを特定すること以上のものです。ビジネスにとってユースケースの問題はスケールの問題であり、AIが業務に最適に位置づける場所を見つけることです。個々の努力を大規模に成果に結びつけることこそがビジネスの目的であり、前者のAI解明とはAI解明が別の提案です。
スキルは、利用可能なAIシステムの活用技術、そのシステムを提供するスキル、AIを適用する前にのコア機能のスキルなど、企業が直面しているさまざまな課題に現れます。特に様々なAI関連スキル分野の重要性を見ると、いくつかのパターンが浮かび上がり、スキル開発戦略を参考にすべきです。
まず、経営者の見解と一般的な労働力の見解との間に最大のギャップは、AIの基礎の重要性にあります。特に、ビジネスの役割に就く人々は基本を理解することを非常に重視します。メディア報道や市場情勢に基づいて、経営者はこの問題が解決したと考え、データ分析やエージェント作成などの高度なトピックにより焦点を当てることもあります。
データの利用にも同様のパターンがあり、経営者はデータの管理や準備、そして一般的なAI運用よりも高次分析に注力しています。共通のテーマは、構築を試みる前に基盤がしっかりしていることを確実にすることです。
一方で、経営者はITやビジネスの専門家よりもAIを活用してコアスキルを拡張することにより高い重要性を置いていることは興味深い点です。これらのコアスキルの現在の強さについては意見の相違があるかもしれませんが、これは経営幹部が「AIのためのAI」を追求していないというもう一つのサインです。それは組織の目標やスキルスタックなど、より大きな全体像と結びついていなければなりません。
職種別に見ると、テクノロジー関連職種への注目が際立っていることが分かります。これは、こうした職種が日常業務でAIを活用するスキルと、AIを導入・実装するスキルの両方を必要としていることが主な要因です。
また、「オペレーション」という大きなカテゴリも比較的高い重要度を示していますが、財務や法務といったより具体的な業務機能については順位が低くなっています。
この結果は、AIに関してよく見られる「理論と実践のギャップ」を示しています。AIはしばしば幅広い課題を解決できる汎用的なソリューションとして語られますが、実際の導入ではそう単純ではありません。どの業務で、どのような形でAIを活用するのかという具体的な運用の詳細が重要であり、まさに「細部にこそ本質が宿る(the devil is in the details)」と言えます。
そのため企業は、AIの可能性を抽象的に語るだけでなく、職種や業務ごとに必要となるスキルや活用方法を明確にしながら導入を進める必要があります。特にテクノロジー関連職種は、AI活用を組織全体へ広げていく上で中心的な役割を担うことになるでしょう。
AI導入における課題としてスキル不足を挙げている企業の大半は、何らかの形でトレーニング施策を構築する計画を立てています。 スキルベースの人材育成への新たなアプローチに対応する形で、AIスキルだけでなく幅広いスキル領域を対象とした包括的な研修プログラムの構築が、最も一般的な取り組みとなっています。
一方で、既存の人材育成プログラムに一定の満足感を持っている企業もあります。こうした企業では、新たにAIに特化した研修プログラムを開発したり、現在実施している学習施策の中にAI関連のモジュールを組み込んだりすることを計画しています。
この結果は、多くの企業がAIスキルを独立した知識領域として捉えるのではなく、より広範なスキル開発戦略の一部として位置付けていることを示しています。同時に、企業ごとの人材育成基盤の成熟度によって、AIスキル強化へのアプローチが異なっていることも分かります。
AIのイノベーションのスピードと、変化し続ける対象を導入する難しさについては数多く語られてきました。企業は、AIが完全に製品化されるまで待つべきではありません。一方で、現在のAIの姿だけを前提に計画を立てるべきでもありません。
AI導入計画やスキル育成戦略は、今まさに安定し始めている領域に焦点を当てながら、将来の変化に柔軟に対応できる余地を残しておくべきです。
3. 将来の成功の鍵は、データ、ポリシー、そして技術運用
- データはAIの学習に不可欠であり、データ活用の最適化における既存の課題がAI導入の障壁となる
- AIポリシー構築能力について、組織は楽観的に捉えている可能性がある。多くのベストプラクティスはいまだ確立途上にある
- 技術部門はAI導入において重要な役割を担うと期待されており、セキュリティ、トレーニング、サポートを主導する存在と見なされている
データは、組織が人材育成を進めようとしている分野であるだけではありません。AI導入を成功させるための中核的な要素でもあります。 生成AIが登場する以前から、企業はより高度なデータ分析に取り組む一方で、データ管理の強化も必要であることを認識していました。そして現在、AIの学習という新たな高度データ活用の目的が加わったことで、データ運用の重要性はさらに高まっています。
しかし、自社のデータ活用について「理想的な状態に達している」と考えている企業はわずか22%にとどまっています。この認識には職種による大きな差があり、経営層では43%が理想的な状態にあると回答している一方、IT担当者では21%、事業部門担当者では16%にとどまっています。
また、企業規模が大きいほど課題は深刻になる傾向にあります。特に従業員数1万人以上の組織では、「理想的なデータ活用ができている」と回答した割合は15%にとどまっており、大規模組織ほどデータ活用の最適化に苦労していることがうかがえます。
企業は、強固なデータ活用体制を構築するうえで、プロセスの整備、スキル不足、技術的な課題など、さまざまな問題に直面しています。適切なポリシーによって支えられた明確なプロセスは、データ分析のスピードを高めるだけでなく、規制への準拠を促進することにもつながります。また、データ管理に関するスキルは、データ分析やデータサイエンスのスキルをより効果的に機能させるための基盤となります。さらに、適切なアーキテクチャを整備することで、企業全体でデータへ包括的にアクセスできるようになり、自動化を実現するための土台も築かれます。
AIはこうした課題の一部を解決する助けとなる可能性があります。しかし、その前提として、AIをどのように学習させるかを理解しておく必要があります。十分に整備されていないプロセスや運用の上にAIを導入すると、既存の問題を解決するどころか、かえって拡大させてしまう可能性があります。
CompTIAのこれまでの調査結果と同様に、データ運用のどの領域においても、「高い能力を備えている」と回答した企業が過半数を占める分野はありません。近年の重点的な取り組みによって、データセキュリティやデータ分析の評価は比較的高くなっていますが、これらの取り組みも、データベース管理、データインフラ、データマイニングといった基盤領域における能力不足によって制約を受けています。
データ分野については、企業は自社にどのようなギャップが存在するのかをある程度認識できています。一方、AIポリシーについては経験不足が、過度な自信につながっている可能性があります。
調査では、回答者の47%が、自社はAIポリシーを策定する能力が非常に高いと考えていると回答しています。この傾向は特に経営層で顕著で、70%が高い能力を持つと評価しています。一方、IT担当者では51%、事業部門担当者では35%にとどまっています。
興味深いことに、この認識は企業規模による違いがほとんど見られません。従業員100人未満の小規模企業と、100~499人規模の中堅企業のいずれも、44%が自社のAIポリシー策定能力を「非常に高い」と評価しています。
しかし、AIポリシーの分野では、多くのベストプラクティスや標準的な考え方がまだ確立途上にあります。そのため、データ活用のように長年の経験を通じて課題を明確に認識できる分野とは異なり、AIポリシーについては実際の成熟度以上に楽観的な評価が行われている可能性があります。
多くのAIポリシー項目が「非常に重要」と認識されていること、そして現時点ではAI技術そのものや企業における導入方法がまだ流動的な状況にあることを考えると、これほど多くの企業が実際に効果的なAIポリシーを策定できる準備が整っているとは考えにくいと言えます。特に、AIがもたらす影響を深く理解するための専門知識や、変化し続ける規制環境に対応するための十分なリソースを持たない企業では、その傾向がより顕著でしょう。
AIポリシーの中には、データガバナンスやリスク管理のように、既存のポリシーを拡張する形で対応できる要素もあります(もちろん、そのようなポリシーがすでに存在している場合に限られます)。しかし一方で、責任あるAI活用の定義、業務プロセスにおけるAIの役割を明確にするための文書化、AIが生成した成果物の検証といった領域は、AI特有の課題であり、ベストプラクティスに対するより深い理解が求められます。
また、AIポリシー策定に影響を与えるもう一つの要因は、AIの利用コストの上昇です。企業は、従業員全員に無制限でAIツールへのアクセスを提供することが現実的ではないことに気付き始めており、職種ごとに最適なアクセス権限の組み合わせを検討し始めています。
同時に、多くの業務アプリケーションやワークフローツールにはAI機能が組み込まれ始めています。これにより、従業員は既存ツールとチャットボットとの間を行き来することなく、現在の業務フローの中でAIを活用できるようになっています。
こうした変化を受けて、技術部門は現在、既存の業務プロセスをコスト効率よく拡張できるような、AIを前提としたシステムアーキテクチャの構築に取り組み始めています。AI導入の次の段階では、単にAIツールを提供するだけでなく、適切なポリシー、アクセス管理、業務プロセス、そして技術基盤を統合した運用モデルを確立できるかどうかが重要な成功要因となるでしょう。
AIの今回の大きな波を通じて、技術部門は大きな注目を集めてきました。AIによって多くの技術職の役割や存在意義が変わるのではないかという議論が活発になっているためです。この議論には一定の妥当性があります。実際、AIは経済全体のさまざまな職種を変革しつつあります。しかし、より大局的に見ると、技術部門が今後もAI導入と運用の中核を担うという見方は明確に存在しています。
この認識は、組織がAI導入についてより深く理解するにつれて強まっていると考えられます。AI活用は、各従業員が個別にチャットボットを使いこなす形ではなく、効率性やコストの観点から、より深い統合と抽象化が進んでいます。最終的に形作られつつある姿は、過去のテクノロジー導入の波とよく似ています。つまり、生産性の高いツールをエンドユーザーに提供するために、バックエンドのインフラを最適化し、安全性を確保する必要があるという構図です。
技術部門が責任を担う、あるいは重要な役割を果たすと期待されている領域を詳しく見ると、従来からの役割と新たな期待の両方が見えてきます。セキュリティとシステム統合の責任は、企業がシャドーITの問題を認識し、事業部門だけでは対応できないことを理解して以降、一貫して技術部門の重要な役割となっています。
興味深いのは、サポート業務が非常に高い順位に位置付けられている点です。テクニカルサポートは一般的にAIによる代替の有力候補と考えられていますが、それでもなお重要な役割として期待されています。また、トレーニングは多くの技術部門にとって本来の中核業務ではないかもしれませんが、技術部門はAIの仕組みを深く理解しており、さらに統合された業務フローを構築する役割も担うことから、この分野への期待は高まっています。
技術部門の役割が明確になるにつれて、必要となるスキル開発も、現在のスキルレベルや企業全体のテクノロジー戦略の成熟度によって異なってきます。企業規模別に見ると、一つの傾向が見られます。小規模企業は従業員向けトレーニングとサポートに重点を置き、大企業はセキュリティとAIコンポーネントの管理を重視し、最大規模の企業では複雑なデジタルワークフローへのAI統合を確実に実現することが重要視されています。
結論
AIを個別の存在として捉えたくなる誘惑は非常に大きなものです。AIは大きな変革の可能性を秘めており、これまでのソフトウェアとは大きく異なる特性を持つため、その独自性に注目し、理解や習得に力を注ぎたくなります。しかし、AIの最大の価値は、既存の技術基盤を変革的に拡張する存在として捉えることにあります。
過去10年間で企業は莫大なテクノロジー投資を行ってきましたが、多くの組織はいまだにデジタルトランスフォーメーションやスキルベースの人材マネジメントへの移行がもたらした影響への対応を続けています。そのため、ゼロから新たな仕組みを構築するのではなく、これまでに得られた知見や経験をAIによってどのように発展させられるかを考える方が、より効率的なアプローチと言えます。
テクノロジーとビジネスの結び付きを強化すること、データとガバナンスの基盤を強固にすること、人とAIの役割分担のバランスを考慮した新たな業務プロセスを定義すること。これらはすべて、AI主導の未来に向けて組織を準備する中で、ITリーダーとビジネスリーダーが検討すべき重要な取り組みです。
そして何よりも重要なのは、持続的な成功を支えるスキル育成の仕組みを構築することです。 優秀な人材を見極め、その人材を社内で育成していくことの重要性は、これまでになく高まっています。一般従業員に求められるAIリテラシーから、高度な技術専門知識に至るまで、必要となるAIスキルの全体像を理解することが、AI導入を成功させ、競争優位を維持するための重要な要因となるでしょう。
調査方法(Methodology)
CompTIAの「Corporate AI Adoption」調査は、2026年6月にオンラインによる定量調査として実施されました。調査には、ビジネス部門およびテクノロジー部門の専門職1,027名が回答しており、95%信頼水準における標本誤差の推定値は±3.1ポイントです。データのサブグループやセグメント分析については、推定誤差がこれより大きくなります。
他の調査と同様に、本調査にも標本誤差が存在し、特にデータを細分化した分析ではその影響が大きくなります。また、非標本誤差については正確に算出することはできませんが、調査設計、データ収集、データ処理の各段階において、その影響を最小限に抑えるための対策が講じられています。
CompTIA, Inc.は市場調査業界団体であるInsights Associationの会員であり、国際的に高く評価されている同団体の行動規範(Code of Standards)に従っています。本調査に関する問い合わせは、CompTIA Research and Market Intelligence(research@comptia.org)までご連絡ください。
CompTIAについて
CompTIA, Inc.は、情報技術(IT)分野におけるベンダーニュートラルなトレーニングおよび認定資格を提供する世界有数の団体です。これまでに発行されたCompTIA認定資格は400万件を超え、現役および将来のIT人材、ビジネスプロフェッショナル、政府・軍関係者、キャリアチェンジを目指す人々、学生など、幅広い層に活用されています。
CompTIAは、世界中の教育機関、政府機関、研修事業者、人材育成団体と連携しながら、質の高い学習ソリューション、業界で広く認知された認定資格、キャリア支援リソースを提供しています。これにより、求職者が自身の可能性を最大限に発揮できるよう支援するとともに、企業が高度な技術スキルを持つ人材を育成できるよう支援しています。
CompTIA Researchについて
Seth Robinson はCompTIAのリサーチ担当バイスプレジデントを務めており、市場調査活動を統括するとともに、人材動向やテクノロジー導入に関するインサイトを提供しています。
Amy Carrado はCompTIAのWorkforce and Internal Research担当シニアディレクターであり、テクノロジー人材に関するデータ定義の策定や、テクノロジー分野のキャリア分析を推進しています。
Anna Matthai はResearch and Market Intelligence担当ディレクターとして、調査運営全般を管理するとともに、テクノロジー人材市場の動向に関する分析・要約を担当しています。